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第二次世界大戦 1939—45(上・中・下) [著]アントニー・ビーヴァー

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年10月11日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■人類の悪の部分、克明に追いかけ

 歴史上、第2次世界大戦とは何を意味するのだろうか。本書はそれを論として分析した書ではない。1939年9月から45年9月までの大戦を克明に追いかけたドキュメントでありながら、読後、読者は自ら論を立てなければ、との焦慮に駆りたてられる書だ。
 ヨーロッパでのナチスドイツの勃興と伸長がどのような経緯を辿(たど)り、やがていかに解体していったか。ヒトラー、スターリン、チャーチル、ルーズベルトなど指導者たちの世界観、歴史観から、それに振り回される庶民の姿が軍事史家、著述家の眼(め)で解き明かされていく。「主要国の対立軸が『英米ソ』対『独日』という形で整理される以前、ドイツ相手の戦争と、日本相手の戦争は、それぞれ別個の軍事衝突として進行していた」と著者は見て、相互の衝突は互いに無意識に結びついていたというのである。
 第2次世界大戦はいうまでもなく、第1次世界大戦を引きずっており、とくにヒトラーはヨーロッパ征服を自らの存命中に行おうと決意して行動を起こしたと見る。ポーランド、フランス、オランダ、ギリシャ、ノルウェー、デンマークなどに軍を進めるヒトラーの思想にふれながら、ドイツ軍の電撃作戦を詳細に語っていく。フランスを陥落させ、イギリスを視野に入れると、イギリスの市民たちの警戒心は高まり、彼らは「突如として、目覚めた」状態になった。ドイツがヨーロッパを席巻しているのを背景に、日本は独、伊と共に三国同盟を結ぶ。改めてヨーロッパの戦時情勢を俯瞰(ふかん)すると、日本は確かにドイツに幻惑され、その優勢な状況を利用して対中戦争の解決を、という発想自体があまりにも甘すぎた。
 本書を読んでいくとわかるが、第2次世界大戦はヒトラーがスターリンを倒して東方に支配圏を拡大しようとした点に歴史的本質が宿っている。独ソ戦の内情の描写は多岐で細部にわたるが、同時にドイツ側の差別意識、ソ連側の憎悪、この歯車が相互に残虐行為に走らせたことも窺(うかが)える。さらに、ナチスのユダヤ人虐殺の狂気性の背景が浮かびあがる。
 スターリンも自国兵士の逃亡や厭戦(えんせん)行為はすべて処刑したが、イギリス人の著者はこの点の批判も繰り返す。著者は日本の軍事指導者が、真珠湾を叩(たた)いて対米講和を求めるのは「驚くべき想像力の欠如」と評している。日本は第2次世界大戦では軽率すぎたのだ。
 第2次世界大戦の結論は、人類が自らの悪の部分を出しきったということだろうか。1500ページを超える大部の書を書きあげる体力と知力に感嘆しつつ、これがイギリスの歴史家が警告する戦争の真実かとの感がしてくる。
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 平賀秀明訳、白水社・各3564円/Antony Beevor 46年生まれ。戦史ノンフィクション作家。バークベック・カレッジ、ケント大学客員教授。著書に『スターリングラード 運命の攻囲戦1942−1943』『ベルリン陥落1945』『スペイン内戦1936−1939』など。



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