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兵士とセックス―第二次世界大戦下のフランスで米兵は何をしたのか? [著]メアリー・ルイーズ・ロバーツ

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2015年10月11日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■戦争が誘発する性暴力とは

 1944年夏、フランスのノルマンディー。ここで米軍が行った上陸作戦は、しばしば軍事的側面からのみ取り上げられる。その後のフランスで、米兵がどのような生活を営んでいたのかについては、ほとんど焦点があたらない。本書は、性という観点から、第二次大戦下の米仏関係を読み解く一冊。三部構成で、一部では「恋愛」を、二部では「売買春」を、三部では「レイプ」を取り扱っている。
 ノルマンディー作戦は、ナチスからフランスの女の子たちを救い出し、キスの嵐で迎えられるといったジェンダー表現でたびたび受容された。この物語はフランスに対する支配意識とも結びつき、兵士たちの性的幻想を強化した。
 そんな中、兵士たちの性的衝動は、多数の売買春や強姦(ごうかん)事例をひきおこしていく。日本のように軍公認の慰安婦制度こそとらなかったものの売春宿の利用は「お目こぼし」された。強姦も深刻な問題となり、米軍はそれを、多くが「有色人種」によるものだと説明することで、人種問題にすり替えた。実に複雑な問題を前に本書は、多くの資料に基づき、背景にある差別などを見事に整理していく。
 著者はフランス史・ジェンダー史が専門。そして監訳者の佐藤は『軍事組織とジェンダー』の著者でもあるジェンダー研究者。フェミニストのバトンリレーがつないだ本書が現在の日本で大きな意義を持つことは言うまでもない。
 慰安婦問題から出発した諸研究は、今やより普遍的な「戦時性暴力研究」の枠組みに位置づけられる。巻末の「監訳者解題」では、慰安婦論争の文脈において本書がいかに受け止められるべきかを丁寧に綴(つづ)っており、「よその国でもやっていたじゃないか」という言い回しが「反論」になるという思い込みがいかに周回遅れかについても説明しつくしている。戦争はいかなる性暴力を誘発するのか。今こそ手に取るべき本だ。
    ◇
 佐藤文香監訳、西川美樹訳、明石書店・3456円/Mary Louise Roberts ウィスコンシン大学マディソン校教授。



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