書評・最新書評

ナチスと自然保護―景観美・アウトバーン・森林と狩猟 [著]フランク・ユケッター

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2015年10月11日

[ジャンル]政治 科学・生物 社会

表紙画像

■政権に接近した郷土愛の理想

 ナチスが悪であることは世界の共通認識だろう。だが、ナチスが先進的に打ち出した政策の中には、現在良いイメージをもたれているものがある。例えば、喫煙と肺がんの因果関係が証明され、健康な国民=兵士を確保するため先駆的な禁煙運動を展開した。本書がとりあげるのは、自然保護運動である。1935年、ナチスの政権下において、画期的な帝国自然保護法が制定され、国家レベルの自然保護ブームが到来した。これが美しい景観設計にも連動したことは特筆すべきだろう。
 ドイツではロマン主義から自然保護の理念がもたらされ、それが郷土を守る運動となり、景観の保存はドイツ人の力の基礎だというヒトラーの言葉に近接していく。むろん、両者は同じではないが、熱狂的な郷土愛、自由主義への批判、「集団の利益は個人の利益に優先する」など、共闘しうる部分もあった。実際、自然保護論者は、ナチスの政策に疑念を抱いたとしても反対せず、むしろ自らの理想を実現すべく、ナチスのレトリックを利用し、政権と友好関係を結ぼうとした。
 本書は、南部の山と採石場の問題、蛇行する川と治水事業、渓谷と水力発電などの具体例を慎重に分析する。ナチスの関与と成果は一様ではないが、東ヨーロッパを征服し景観をドイツ化する東部総合計画には、自然保護の専門家が関わっていた。
 ドイツを旅すると、戦争の記憶が都市の随所に蓄積されており、歴史と向きあう国だと納得するが、このテーマが検証されたのは意外に最近で2002年のシンポジウムからという。本書もそれを契機に執筆された。「たとえ苦痛なことであろうとも、自分の過去に正面から目を向けることは基本的なことだ」。居心地が悪くても、歴史的な真実を知ったうえで未来に進むこと。今後の環境保護運動に教訓を与える本だが、戦後70年の日本にとっても同様だろう。
    ◇
 和田佐規子訳、築地書館・3888円/Frank Uekoetter 70年ドイツ生まれ。環境研究家。英バーミンガム大学准教授。

関連記事

ページトップへ戻る