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雑誌『第三帝国』の思想運動―茅原華山と大正地方青年 [著]水谷悟

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年10月11日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■実生活に根ざした国家再創造

 第三帝国をナチスが名乗る前に同名の雑誌が大正時代の日本で刊行されていた。本書はその発行人・茅原華山と読者たちを対象とする「集団の思想史」研究の報告である。
 選挙工作を一切しない「模範選挙」を謳(うた)って立候補。落選すればそれも「模範落選」と称して党利党略に明け暮れる藩閥政党批判を展開する機会に使う。したたかでしなやかなその人物的魅力だけでなく、茅原の唱える「益進主義」ももっと広く知られてよい。
 あくまでも個人に根ざして自我の覚醒を促し、イデオロギーに走らずに実生活の充実を通じて内側からの国家再創造を求める。ナチズムとは異質の漸進的かつ堅実な改革ビジョンへ地方の青年たちが熱い期待を寄せていた。そんな事情を示す数多くの投書を載せた同誌が短命に終わらず、明治維新に続く「第三の」建国運動の拠点たりえていたら、日本は全体主義化とは別の道を辿(たど)っていたのではないか。敢(あ)えて歴史に「イフ」を持ち込み、考えてみたくなる。
    ◇
 ぺりかん社・7560円

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