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自衛隊のリアル [著]瀧野隆浩

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年10月18日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「軍隊らしさ」求める安保法制

 今夏、可決された安保法制は自衛隊に今まで以上に「軍隊らしく」働けと要請する。この「らしさ」は「自衛隊らしさ」と隔たりがある。創設当初、「存在」自体が違憲と言われた自衛隊は国民に愛されようと「軍隊らしくない」災害救援などに粉骨砕身努力してきた。こうして60年かけて自衛隊は国民の9割が認める組織になったのだから。
 著者は防衛大学校出身の異色の新聞記者。自衛隊を内部から垣間見た貴重な経験と豊富な人脈を生かし、「らしさ」と「らしくなさ」の間で揺れる自衛隊のリアルな姿を描き、自衛隊史の新たな頁(ページ)を開く安保法制の行方に注目する。
 国会審議ではまず隊員のリスクが質(ただ)された。だが首相は安保法制とリスクは「関係ない」と逃げた。一方でリスク増を問題視する野党の姿勢にも既視感があった。イラク派遣前にも劣化ウラン弾の危険が散々指摘されたが、派遣実施後にその話は霧消した。リスクを巡る論戦は、結局は法案を成立させるか阻むかの「ためにする」議論なのだ。
 やがて集団的自衛権の行使について違憲論が再燃する。その経過を見ながら著者が聴いていた音楽はAKB48の「僕たちは戦わない」だったという。なぜ「戦わない」のか。歌詞は「愛を信じてる」からと続く。「諸国民の公正と信義に信頼して」「安全と生存を保持」する決意を述べた憲法前文にどこか通じるようだが、耳に心地よい言葉を繰り返すだけで歌は終わる。
 法案成立後には違憲論議も流行歌のように消えてしまうのか。国民的合意を得られぬまま現場に送り出された自衛隊員が銃口の前に立たされる。あんまりだと著者は書く。
 「もう一歩考えを深めていただきたいと思う。私たち自身、国の平和と独立を、どう守っていくかについての具体策を」。こらえ切れず、絞り出すような筆致には、安保法制への賛否を超えて読者に迫る力が確かにある。
    ◇
 河出書房新社・1512円/たきの・たかひろ 60年生まれ。毎日新聞社会部編集委員。著書に『出動せず』など。

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