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欧米社会の集団妄想とカルト症候群 [編著]浜本隆志

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2015年10月18日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■悪夢の歴史、いまだ終わらず

 人類が犯してきた古今東西の虐殺に関する歴史書を読んだり、ドキュメンタリーを見たりすることに学生時代から関心があった。その非道さに憤り、残酷さに恐怖し、「なぜこんなことになるのか」の問いが頭から離れない。時間を忘れてのめり込んでいると、虐殺を楽しむ異常性癖が自分にはあるのではないかと恐れおののくこともあった。
 ただ、今までこの血塗られた歴史は、自分の身近な生活につながっていない安心感があったが、本書を読んで、それがグラグラ揺れ始めた。
 題名の「集団妄想」は、特定集団や地域全体がパニックを起こし、異常行動をとる現象で、15~18世紀に蔓延(まんえん)した魔女狩りなどを指す。「カルト症候群」は、宗教、イデオロギーを核とした狂信的集団が反社会的行動に走ることで、最大ではヒトラー率いるナチスがあった。おどろおどろしい題名通り、欧米の文化論などの研究者7人が、虐殺が繰り返された悪夢の歴史を解きほぐす。難解ではない。魔女狩りの発生、連鎖のメカニズム、ナチスの人種差別の理論や大衆洗脳の術が構築される経過が資料にもとづく丹念な検証作業で明かされる。
 本書が扱う千年近い歴史の中で共通点が見えてくる。魔女狩りの章で言及されたように、被害者について「いじめの場合とよく似ていて、矛先は弱者に向けられることが多かった」。ユダヤ人を大量虐殺したナチスの蛮行も、ユダヤ人をスケープゴートとして迫害してきた欧州史の延長上にあった。集団妄想やカルトは、天災、飢饉(ききん)、戦乱に苦しむ民衆の不満のはけ口として繰り返し発生したという。
 マイノリティーへの憎悪をあおり迫害する。これは昨今の在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチと確実に重なるものがある。悪夢の歴史と一線を画したつもりが、悪夢が終わっていないことを、本書は欧米の歴史的事実の検証をもって伝えているのだ。(評・市田隆=本社編集委員)
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 明石書店・3672円/はまもと・たかし 44年生まれ。関西大学名誉教授。『拷問と処刑の西洋史』など。

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