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欧州解体―ドイツ一極支配の恐怖 [著]ロジャー・ブートル

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年10月25日

[ジャンル]社会 国際

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■EU離脱の利害、英の目線で

 最近のギリシャ危機で、EU(欧州連合)への懐疑が広がってきた。リーマン・ショック前まで、EUは一大経済圏として世界の気候変動政策を先導していた。しかしそれも、内的統一がとれてこそ。いまでは経済低迷と南北間対立ですっかり内向きになった。
 こうしたEUに、イギリスは留(とど)まるべきか。本書は、EUの根本的な改革が無理なら解体し、イギリスは離脱すべきだと説く。以前なら過激思想として一顧だにされなかっただろう。だがその主張は、意外に説得的だ。英国は、2017年末までにEU離脱を問う国民投票を実施する。有力エコノミストのこうしたEU離脱論がどれほど影響力をもつのか、目が離せない。
 なぜ、EUは駄目なのか。これまで、巨大経済圏の創出こそがパワーの源泉だとの(誤った)信念のもとに、域内市場統合を推進してきた。だが他方で、ビジネスに過干渉し、予算を無駄に使い、経済的基盤の強化を怠ってきた。世界を見渡すと、EUが経済的に停滞する一方、小国は相対的に経済パフォーマンスがよい。しかも、ユーロ導入は域内の経済格差を広げ、それを為替レートで調整する手段を各国から奪ってしまった。
 根本的な解決策として著者は、ユーロの南北間分割、EUの役割を真に欧州的な仕事に限定し多くを各国の自主性に委ねること、そして、さらなる統合深化を放棄すること、この3点を提唱する。
 だが、これが困難だとみる著者は、英国のEU離脱の利害得失を検討する。結論は、EUを離脱して北米や新興国とつながる方が、衰退するEUと運命を共にするより将来展望が開ける、というものだ。
 きわめて英国的、しかも経済的視点からのEU論だという限定は、確かにある。ただ、一時は「東アジア共同体構想」も真剣な俎上(そじょう)に上った同じ島国の日本にとって、EUの運命は決して他人事ではない、と感じさせる一冊だ。
    ◇
 町田敦夫訳、東洋経済新報社・1944円/Roger Bootle 英シンクタンク「キャピタル・エコノミクス」を創業・経営。

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