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死刑冤罪―戦後6事件をたどる [著]里見繁

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2015年10月25日

[ジャンル]歴史 社会

表紙画像

■大きな理不尽に苦闘する人々

 やってもいないことを「おまえがやったんだな」と決めつけられ、こちらの言いぶんをまったく聞いてもらえなかったら、どんな気持ちがするだろう。「あまりに理不尽だ」と、怒りと悔しさとむなしさがこみあげるはずだ。ましてや、身に覚えのない殺人の罪を着せられ、死刑を宣告されるとなれば、絶望という言葉では生ぬるい事態だ。
 本書は、戦後の代表的な死刑冤罪(えんざい)事件を取りあげ、どのようにして無実のひとが殺人犯に仕立てあげられたのかを解説する。自白の強要、証拠の改竄(かいざん)、ずさんなDNA鑑定。それらをろくに検討・検証せず下される判決。警察、検察、裁判所の問題点が明確に指摘される。
 著者は丹念に取材をし、冤罪を晴らしたひとが、その後どのように暮らしているのかも報告する。何度も再審請求し、何十年もかけて無罪判決を勝ち取ったのに、待っている現実は厳しい。家族とうまくいかなくなってしまったひとも、深い人間不信に苦しむひともいる。
 犯した罪は、法によって公正に裁かれる。その信頼を根底から覆す冤罪は、当然ながら一件だってあってはならないはずだ。「自分には関係ないもんね」と言っている場合ではない。関係ないのに、身に覚えのない罪を着せられたひとが、現にいるのだから。
 私だって国民であるからには、国の主権者だ。まずは、「自分だったら」と真剣に想像しようと思った。国家によって、無実のひとに死刑(を含めた有罪)が宣告されることの重大さに、もっとちゃんと気づくために。
 本書には、大きな理不尽に翻弄(ほんろう)され、苦闘する人々の姿が記されている。かれらの言葉に耳を傾け、かれらを支え、捜査や裁判の誤りを検証し追及しつづけた人々の姿も。理不尽をなくすには、どうしたらいいか。冤罪について知り、考えるための一歩として最適な一冊だ。
    ◇
 インパクト出版会・2700円/さとみ・しげる 51年生まれ。関西大学社会学部教授(映像ドキュメンタリー)。

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