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ロマネスク美術革命 [著]金沢百枝

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2015年11月01日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■かわいい、楽しい、中世の独創

 母が中世のロマネスク美術を研究していたので、若いときから、本書で論じられている「枠組みの法則」を知っていたが、その印象を大きく変える内容だった。これは美術史家アンリ・フォションが提唱したもので、柱頭やアーチなどの建築の枠組みに縛られ、彫刻が不自然に歪(ゆが)んでいることをさす。が、著者の金沢は、必ずしも彫刻が建築の部位に依存しない事例を紹介し、枠組みこそが独創的な表現と形態を生みだしたと積極的な評価を与える。いや、広義の意味において、枠組みに縛られないことが、ロマネスク美術の魅力なのかもしれない。
 例えば、古典主義、あるいはゴシックの建築では、柱のデザインは決まったパターンだが、ロマネスクではほのぼのした犬などの様々な動物や物語が入り込む。おしなべてそれらは自由で、かわいく、そして楽しい。また近世の著名アーティストの傑作とは異なる表現をもつロマネスクは、20世紀に再評価されたという。本書は美術のモチーフをすべてキリスト教と結びつけるテキスト偏重主義の解釈ではなく、かたちそのものを鑑賞する愉(たの)しさを思い起こさせる。例えば、写本の装飾文字、海獣の姿の変遷、北欧教会を飾るドラゴン。教会建築に対する見方も示唆的だ。
 従来は、ゴシックへの過渡期、あるいは稚拙で素朴な表現とみなされたロマネスクは、独自の感覚的な表現を創造した美術革命だったと著者は指摘する。社会の安定化、農業の発展、巡礼の流行によって聖堂の建設ブームが起き、古代建築のリサイクルでは追いつかなくなり、新しい美術がもたらされたという。写実でもなく、定型の洗練でもない。規格品の量産とも違う、手作りによる工夫の数々。「ロマネスクを見ることは、美の多様性へと眼(め)をひらくこと」だと教えられるだろう。著者のロマネスク美術に対する愛も随所に感じられ、読書体験を楽しいものにしている。
    ◇
 新潮選書・1512円/かなざわ・ももえ 68年東京都生まれ。東海大学文学部教授。著書に『ロマネスクの宇宙』。


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