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日本人にとって美しさとは何か [著]高階秀爾

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2015年11月01日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■東西で異なる自然観、美意識

 冒頭いきなり、日本人と西洋人の美意識の差異が「言葉とイメージ」という主題で、日本は自然に、西洋は反自然に従うという、二つの感性の比較から語られる。
 西洋では言葉とイメージを分離して考えたが、日本ではすでに古今和歌集の時代から両者は合体しており、「扇面法華経冊子」、「金字宝塔曼荼羅(まんだら)」、そして宗達VS.光悦へと時代を下りながら言葉+イメージを絵画的効果として発展させ、「書画」という馴染(なじ)みのある言葉が生まれた。西洋に先駆けること千年。西洋がこのことに気づいたのは19世紀末である。
 また日本人がそれと気づかないうちに、かつて西洋にジャポニズム旋風を巻き起こした。今日の現代美術が頻繁に作品中に導入する言葉は、元をただせば日本の伝統的美意識を源泉としていることに気づく。マグリットやミロ、ポップアートが多用するイメージと言葉のルーツこそ日本の遺伝子では?
 さらに日本のマンガが到達したあの「シーーーン」という静寂を表す感性の表現の前では、さすがの西洋も沈黙を守ったままだ。歌舞伎の雪の降る音や、幕の背後に川の存在を暗示させる太鼓の音は、彼らにとっては物質世界を超えた四次元表現にしか映らないんじゃないだろうか。
 著者は、日本人さえ気づかない非西洋的独自性を、帽子の中からハトを出すように次々と取りだし、驚かせてくれる。「複眼の視点による日本文化論」と著者は本書を規定するが、この「複眼の視点」こそが日本人の感性ではあるまいか。
 ぼくは東西の自然観の相違に最も興味を抱いた。西洋の、見えるものへの物質的信仰に対して、日本の、物質の背後に見えざる精霊「アニミズム」を認め、人間と自然を同一に考える日本人の宇宙観に日本の独自性が宿っていることを本書から示唆されたような気がする。
    ◇
 筑摩書房・2052円/たかしな・しゅうじ 美術評論家。岡山県倉敷市の大原美術館館長。『ゴッホの眼』など。


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