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Killers(上・下) [著]堂場瞬一

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2015年11月15日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■変貌続ける街が生む殺人衝動

 大規模再開発が進む今の東京・渋谷。物語は、その一画で時代に取り残された古アパートの一室から老年男性の遺体が発見される場面から始まる。この男性は、東京オリンピック開催前の1961年から続く連続殺人事件の容疑者・長野保なのか——。
 「殺人者」長野は、高度成長期、バブル期と刻々変わりゆく地元の街・渋谷をこよなく愛する人物だ。その変化を愛するからこそ、「老廃物」を排除し、浄化するという使命感で青年時代から老人などをターゲットに殺人を繰り返す。
 長野は有名政治家の次男として生まれ、「東大開闢(かいびゃく)以来の天才」と言われた時期もあった。小説の中で優秀な頭脳にこの狂った使命感がいつ宿ったかは判然としない。殺人を正当化する独白を繰り返すが、衝動的に犯行に及ぶことが多く、不可解だ。
 しかし、読み進めていくと、50年以上にわたって古いものを壊し、ひたすら新しいものを求める渋谷の節操なき変貌(へんぼう)に、この殺人衝動が合ってくることに気がつく。渋谷の変化が長野を刺激し、狂気に走らせる。その殺意は、欲求不満を抱えた他の青年たちにも伝染していく。
 活気あふれ、変化を好む大都市の裏側に、人々の発散できない不満や欲望を吸い込み、殺人衝動さえ生まれる暗部があることを示す著者の仕掛けを感じた。小説の真の主人公は渋谷の街そのものなのかもしれない。
 殺人者側と、刑事や新聞記者の追跡者側の関係は、血縁など複雑に入り組み、3世代にまたがる攻防を繰り広げる。追跡者は何度も挫折を繰り返すが、徐々に殺人者を追い詰めていく過程はスリリングで、エンタメ小説としての魅力は十分だ。
 本書は、警察小説を中心に発表し続ける著者のデビューから100冊目の作品。改めて犯罪の深層に切り込もうとする意欲作となった。(評・市田隆=本社編集委員)
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 講談社・上下各1944円/どうば・しゅんいち 63年生まれ。『8年』で小説すばる新人賞。『刑事・鳴沢了』シリーズなど。

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