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異世界の書―幻想領国地誌集成 [編著]ウンベルト・エーコ

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2015年11月22日

[ジャンル]人文

表紙画像

■地球の神秘を衒学的にガイド

 人は宇宙に存在しないものを創造することは不可能である、と言った人がいた。創造の源泉は無からではなく有からであると。我々が認識する現実世界は全て物質からなり、非物質的世界は存在しないことになっている(?)。
 例えばガリヴァーが旅した場所は想像世界の虚構で、現実には存在しないという約束のもとにある。本書は小説や映画などの架空の場所や虚構の場所は対象外で扱わない。
 ではアトランティス、ムー、レムリアは? 過去の地球に存在していたかもしれないこれら古代文明と並び、著者エーコが本書で最も多くページを割くのは、われわれの立つ地面である「地球の内部」と「極地神話」と「アガルタ」である。一般に知られる地球空洞説と極地の内部に通じる穴、そして内部の王国アガルタの存在を、エーコは各国の伝説や宗教から多くの実例を挙げ喜々として語る。
 ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を始め実に多くの小説家や冒険家が地球内部についての作品や記録を残している。空洞説を下敷きにした創作なのか実話なのか、ノルウェーの漁師のヤンセン親子による見聞記は、本書には詳しくは出てこないが面白い。集められた資料には驚異の世界が展開され、これがもし事実であれば地球の秘密と人類の歴史に大波乱を巻き起こしかねないが、残念ながら地球の内部は灼熱(しゃくねつ)のマグマがつまっていると知らされてきた。
 にもかかわらず空洞説は終焉(しゅうえん)を迎えそうにない。というのもエーコの言うように、これらの場所は〈想像された架空の場所や虚構の場所ではない〉という考えを受け入れている人々がいるからである。エーコ自身は、異世界をガイドしつつ存在には、衒学(げんがく)的に態度を保留したままである。
 本書を科学知で読むか、想像の実現を試みる芸術知で読むか。それにしても人間を取り巻く世界の謎と神秘には終わりがない。
    ◇
 三谷武司訳、東洋書林・1万260円/Umberto Eco 32年生まれ。伊ボローニャ大学教授、作家。『記号論』など。

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