書評・最新書評

アメリカは食べる。―アメリカ食文化の謎をめぐる旅 [著]東理夫

[評者]大竹昭子(作家)

[掲載]2015年11月29日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■「広さ」と「移動」、克服する料理たち

 著者はカナダの日系2世の両親を持つ日本育ち。グレイヴィソースのかかった肉料理とか、コーンビーフ・キャベッジとか、食卓には一風変わったメニューが並んだ。その記憶をたどりながら、北米を車で旅し、土地の食堂に入り、人々の食べるものを口にする。おいしいものを探すのではない。食べて、調べて、考えて、アメリカとは何かを問うために。
 本屋で店主が言う。トウモロコシがこの国を創ったと。最初に来たインディアンはトウモロコシの栽培に成功してこの土地に定着し、イギリス人は本国から持参した種子が根付かないという危機を小魚を肥料にこれを育てる彼らのやり方を学んで乗り切った。制限の多い環境下で本国のメニューに似たものが工夫がされる。トウモロコシをイギリスの調理法で料理したコーンプディングは典型だがほかにもチーズをまぶして焼いただけのマカロニグラタン、塩漬け牛肉の残りをジャガイモと炒めたコンビーフ・ハッシュなど、なるほどアメリカの味には他の文化圏とのハイブリッド料理が多い。
 イタリアのスパゲティーはアメリカから世界に広まった、という話もうなずかせる。値段が安いのに、満腹感のあるワンプレートフードになるという利点が若者に歓迎され、全土に広まった。日本にもイタめしブーム以前に、アルデンテではないふにゃふにゃのものが赤いチェックのテーブルクロスと共に到来している。
 買ったものを立ったまま食べるという今や当たり前になった習慣も、アメリカの影響なくして考えられない。カウボーイの野営料理や野外のバーベキュー料理などが、指でつまんで食べられるフィンガーフードを生み、その移動可能の食のあり方がストリートフードにつながり、さらには家族団欒(だんらん)や行儀作法など、食を巡る固定観念をも突き崩したのだ。
 ケイジャンやクレオールやソウルフードなどのローカルフードには地域ごとの違いがあるものの、ハイウェイ沿いの店はたいがい同じメニューで同じ味で、ステーキの焼き方もほぼ一定だ。料理人にプロとアマの差が見られず、食べる方も家庭料理の延長で構わないと思っている節がある。
 なぜだろう、と考える著者の頭に灯(とも)るのは、アメリカの「広さ」と「移動」だ。広い土地を移動するのは生の可能性を拡大するのに等しい。どこでも同じ程度のものが手に入るという公平感はその広さを克服する力になる。隣人と同じものを安心して食べることが、明日の旅立ちへのファイトを生み出すのだ。
 厚さ4センチの本にアメリカ化した各国の料理のルーツがたどれる。願わくば索引があれば!
    ◇
 作品社・4104円/ひがし・みちお 41年生まれ。作家・エッセイスト・ミュージシャン。料理や音楽に造詣が深く、著書に『アメリカは歌う。』『ケンタッキー・バーボン紀行』『5弦バンジョー教本』など。訳書に『ミリオンダラー・ベイビー』など。

関連記事

ページトップへ戻る