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にもかかわらず―1900—1930 [著]アドルフ・ロース [訳]加藤淳

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2015年11月29日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■「装飾は犯罪」今も刺さる主張

 とんでもない一文に出会う。「建築家を毒殺せよ」。建築嫌いの批評家が気まぐれに書いた文章ではない。20世紀初頭のウィーンで活躍した建築家、アドルフ・ロースが一貫した思想のもとで記したものだ。彼は本書に収録された「装飾は犯罪である」という過激な主張で知られ、モダニズムの先駆者とされる。パプア人は当然のように刺青を入れるが、現代人が同じことをすれば、犯罪者か変質者になると述べて、文化の発展は装飾を削(そ)ぎ落とす過程という。
 ロースの立場がねじれているのは、19世紀末に登場したウィーンの分離派も攻撃していることだ。彼らは応用芸術と称し、過去の様式にとらわれない新しい装飾を生みだす。が、ロースは、メディア受けする美しい図面を描く建築家の芸術的な意匠を批判し、叡智(えいち)が凝縮された農家の伝統的なかたちや本物の材料を高く評価する。ゆえに、無装飾の上着やシガレットケースなど、職人のしっかりとした仕事の方が、近代の時代精神に基づくという。だから、建築家は職人に「口出しするな!」、時代に合った日用品を求めるなら、彼らを毒殺せよ、と書く。すなわち、近代都市が生みだした、移り変わる表面上の目新しさという「装飾」にも否定的だ。21世紀を迎えた現在も、ネットが流行の変化を加速させていることを考えると、彼の批判はわれわれにも突き刺さるだろう。
 本書は、ロースが30歳だった1900年から29年までのエッセーを時系列で並べた主著の初の全訳である。建築以外の内容もかなり多く、礼儀作法、ベートーヴェンやシェーンベルクなどの音楽、服飾や髪形など、様々な切り口から近代やウィーンを論じる。これをきちんとした日本語で読める翻訳環境に感謝したい。また最後の文は、彼の設計する住宅の仕事を支えた最高の家具職人に哀悼の意を捧げている。ロースが亡くなったのは、その4年後だった。
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 みすず書房・5184円/Adolf Loos 1870年、モラヴィア地方(現チェコ共和国)生まれの建築家。

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