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コトラー 世界都市間競争 [著]フィリップ・コトラー、ミルトン・コトラー 資本主義に希望はある [著]フィリップ・コトラー

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年12月06日

[ジャンル]政治 社会

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■大都市圏の浮沈、多国籍企業が鍵

 「大阪ダブル選挙」が大いに注目を浴びた。だが大阪の抱える、企業と若年人口の東京流出、貧困問題、財政危機といった諸課題は、「二重行政の解消」では簡単に解決できない。真にチャレンジングな課題は、どう大阪の産業基盤を再構築して税収をあげ、住民の生活基盤を確立するかだ。そして、何に優先的に投資すべきかを、決定せねばならない。大阪の問題は、決して他人事ではない。他都市もいずれ直面する課題を、先取りしているだけなのだ。
 『コトラー 世界都市間競争』は、大阪のような大都市圏が、さらなる発展を遂げるための都市経営指南の書といえる。コトラーはマーケティング研究の大家であり、本書は実弟との共著である。その主たるメッセージは、(1)富を生み出すのは都市であり、国家ではない(2)都市経済を牽引(けんいん)するのは多国籍企業であり、彼らこそが所得と雇用をもたらす(3)結局、都市の浮沈は、多国籍企業を吸引する力にかかっている、というものである。
 そのために都市は魅力を磨かねばならない。対象は、インフラ整備などハード面から、人材の質、政策や制度、生活の質などソフト面に及ぶ。都市はこれまで中小企業支援を重視してきたが、グローバル経済が多国籍企業に担われ、彼らの成長が国家よりも速いという冷厳な現実を受け入れるなら、その本社や事業部の誘致に焦点を移すべきだと著者は警告する。
 コロラド州の州都デンバー市の事例には瞠目(どうもく)する。当初彼らは、周辺自治体との合併に失敗。方向転換して近隣自治体との協力関係を再構築し、「デンバー大都市圏」の発展計画を策定した。国際空港の建設に成功し、圧巻は2004年、高速公共交通機関を建設するため売上税増税を住民投票で問うて、過半数獲得に成功したことだ。こうした過去30年間の営々とした努力により、デンバー大都市圏は様々な産業のハブとなり、全米有数の大都市経済圏に成長した。
 こう書くと、著者は情け容赦のない競争賛美論者かと思われるだろう。実際彼は、都市が生き残るには企業の力を求めて激烈な都市間競争の海に漕(こ)ぎ出せと叱咤(しった)激励している。しかしその同じコトラーが、『資本主義に希望はある』では、14項目も資本主義の弊害を挙げる。アメリカ資本主義の病ともいえる「所得・資産格差の拡大」、「金融化」、「広告による消費操作」、「短期利益重視」への批判、そして「真の豊かさの探求」など、その筆致はかつてのガルブレイスを髣髴(ほうふつ)させる。両書を併せ読むことで、フリードマン、サミュエルソン、ソローと、思想的傾向の異なる3人のノーベル経済学賞受賞者に師事した著者の全体像が浮かび上がるだろう。
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 『コトラー』竹村正明監訳、碩学舎・2592円△『資本主義に希望はある』倉田幸信訳、ダイヤモンド社・2160円/Philip Kotler 31年生まれの市場経済学者。「現代マーケティングの父」と呼ばれる/Milton Kotler コトラー・マーケティング・グループの創設者。

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