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「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気 [著]牧村康正、山田哲久

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2015年12月06日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■アニメに賭けた波乱の人生

 「宇宙戦艦ヤマト」のプロデューサーであった西崎義展氏。彼の幼少時代から事故死までの歩みを追ったルポの読後感は、「なんてめちゃくちゃな人生だ」というものだ。序章のタイトルは「いつ消されてもおかしくない男」で、冒頭は「彼は悪党であった」との文から始まる。アニメプロデューサーを表現するのに、「消される」「悪党」という言葉が用いられるなんて、ただごとではない。
 昨今、漫画『ブラック・ジャック創作秘話』のように、漫画やアニメの現場を追うルポ漫画などが多く描かれている。だが本作には、クリエーターたちがいかに「ヤマト」に創造的情熱を注いだかといった美談形式の描写は出てこない。代わりに、西崎氏をめぐる逸話の数々が深掘りされるのだが、それがあまりにも波乱に満ちたものばかり。
 手塚治虫の会社「虫プロ」の再建に関わりながら、あまりに傍若無人な振る舞いと権利トラブルにより、スタッフばかりでなく手塚をも激怒させる。それでも西崎は、「海のトリトン」でアニメプロデューサーデビュー。その後、「ヤマト」をはじめとして様々な作品に携わるも、その強引な手腕により、周囲と衝突したことは数知れず。社内の会話を録音して「盗聴」する。クルーザーやクラブで散財する。その一方で、100円ライターすら値切り交渉する。松本零士氏との著作権トラブルを招く。薬物、銃刀法違反による逮捕スキャンダル。そして海上での事故死。
 人物評伝としても面白いが、金にうるさく、破天荒なひとりのプロデューサーの姿を通じて、アニメの興行的側面も浮き上がる。アニメもビジネスである以上、「当たるか、当たらないか」の世界。作品表現そのものにこだわるばかりでなく、コネクションやグレーな手法までも駆使して「当てる」ことに腐心する姿は、読む者のアニメ業界観をも変えるかもしれない。
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 講談社・1620円/まきむら・やすまさ フリージャーナリスト やまだ・てつひさ アニメ制作会社代表取締役。


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