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動くものはすべて殺せ アメリカ兵はベトナムで何をしたか [著]ニック・タース

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年12月13日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■病んでいた時代の実像を暴く

 ベトナム戦争での米軍の作戦は「索敵殲滅(さくてきせんめつ)作戦」と称された。米兵の任務は「革命軍兵士を見つけ出して殺害する」であった。が、実際は本書のタイトルのような作戦が日々、ベトナム各地で行われた。
 著者は、研究論文作成中にたまたま国防総省内に設けられていたベトナム戦争犯罪作業部会の膨大な記録文書に出会い、その内実に驚き、改めて帰還兵や、ベトナムを訪れてベトナム人生存者たちに取材を試み、米軍がベトナムでどのような残虐行為を行ったのか、を確かめた。
 1968年に起こったミライ集落(ソンミ村)虐殺事件は、歩兵師団の1中隊が4時間にわたり武器をもたない村人500人以上を殺害した事件で、一人の帰還兵の勇気ある告発でその真実が露呈した。これを機に国防総省は部会を設けて米軍の残酷な作戦の実態を調べた。
 本書を読んでの率直な感想だが、米軍の作戦は戦争犯罪を定めた法規に抵触するという事実、米兵は拷問、強姦(ごうかん)、殺人などやりたい放題だったとの現実、闇に消えつつあったこれらの報告書が世に出る経緯など、ベトナム戦争によりバランスを失っていくアメリカ社会の姿が浮かんでくる。国防総省の「陸軍は、無意味な殺人や人命軽視を許したことは過去一度もありません」との言が冒頭に紹介されているが、その白々しさがもっとも大きな歪(ゆが)みだと気づく。
 次々と暴かれていく虐殺行為にページを開くのも辛(つら)くなる。著者のインタビューに20分以上も泣き続けるベトナム女性のその涙がすべてを語っている。虐殺行為の背景にあるのはワシントンの政治と軍事の指導部、ベトナム人を動物以下だと考える司令官、そして20歳前後の兵士に人種差別と憎しみと抹殺を教えて戦場に送りだす教育システムなどだ。病んでいた時代の実像を同じアメリカ人がえがくその勇気に、私たちは多くのことを教えられる。
    ◇
 布施由紀子訳、みすず書房・4104円/Nick Turse 75年生まれ。ジャーナリスト、歴史学者。戦争犯罪を調査。

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