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〈お受験〉の歴史学 選択される私立小学校 選抜される親と子 [著]小針誠

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2015年12月13日

[ジャンル]歴史 教育

表紙画像

■時代の要望がわかる「教育史」

 高校受験、大学受験はみなが知る。中学受験も都市部では普通に行われている。けれども小学受験は他に比べ特殊である。あまり話題にならないし、どの家庭でも参加できるとは、主に経済的理由からいい難い。本書はこの受験 —恵まれた層がチャレンジするので皮肉を込めて「お受験」と呼ばれる— の実態を歴史的にあますところなく、かつ冷静に追いかける。
 私立小学校に入るには何倍もの競争を勝ち抜かなくてはならない。加えて学費は高額である。それでも親たちは(1)学校の教育理念に惹(ひ)かれて、(2)子どもの良好な成長環境を求めて、(3)受験や進学に有利であるから、等々の理由で私立小学校を選択する。高い学歴と豊かな経済力を有する彼ら彼女らの多くは、公立小学校に対しては「適切な教育をしてくれないのではないか」との不信感をもっている。私立小学校を選択することは、公立小学校から「脱出」することでもあるのだ。
 親や子が学校に選抜(テスト)される一方で、学校もまた、親たちに「この小学校こそ」と選ばれねばならない。歴史学的に見ると、私立小学校は明治時代から存在した。ある学校は現在も栄え、ある学校は廃校の憂き目を見た。本書はそれらの変遷を跡づけることで、各時代にどんな私立小学校が望まれたのか、つまりはどんな教育が人々に求められたのかを明らかにする。それはまさに、上からの教育制度史ではなく、社会の側からの生き生きとした教育史である。
 本書は緻密(ちみつ)に分析し、冷静に叙述する。読者たる私たちは、各々(おのおの)が体験してきた受験や教育をふり返り「いや、私なら」と夢中になって考えを巡らしていく。私もその一人で、熱くなっては我に返り、ああまた筆者に乗せられた、と苦笑した。かかる筆者と読者との関係は、練達な指揮者と聴衆のそれに似ているように思う。「教育のいま」を知るために、必読の書である。
    ◇
 講談社・1890円/こばり・まこと 73年生まれ。同志社女子大学准教授。著書に『教育と子どもの社会史』ほか。

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