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「出島の千の秋」書評 事務員の秘めたる恋の物語

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2015年12月13日
出島の千の秋 上 著者:デイヴィッド・ミッチェル 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784309206882
発売⽇: 2015/10/27
サイズ: 20cm/339p

出島の千の秋(上・下) [著]デイヴィッド・ミッチェル

 長崎・出島のオランダ商館の事務員デズートの秘めたる恋の物語。西洋医学を学ぶ産婆、織斗と出会うが、思いは果たせないまま、彼女は邪教の犠牲となって幽閉される。物語は一転、イギリス軍艦の登場で英蘭戦争の様相に。軍艦の出島攻撃に、ひるむことなくオランダ国旗を守るデズート。ありえたかもしれない歴史のなかで、運命の女神に翻弄(ほんろう)されるデズート、織斗、そして長崎奉行、邪教の僧正。織斗は解放されるのか、不正義に裁きは下るのか。生命と知力をかけた謀略に手に汗握り、デズートと織斗の切なくも美しい再会に涙をぬぐうのも忘れ、200年前の長崎・出島に、この身を置いて楽しんだ。
    ◇
土屋政雄訳、河出書房新社・上3456円、下3564円