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越境者の政治史 アジア太平洋における日本人の移民と植民 [著]塩出浩之

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2015年12月13日

[ジャンル]歴史 政治

表紙画像

■「移動」に焦点、「日本人」とは

 明治時代から第2次世界大戦の敗戦まで、「日本人」はどこへ移り住んだのか。そして、地域の秩序にどのような影響を与えたのか——。
 北海道や樺太から、ハワイ、旧満州、朝鮮半島、台湾、南北アメリカと、移住先での国籍、市民権、参政権をめぐる動きと政治や民族意識のありようを包括的にとらえようとした本だ。
 前提となる日本人を、北海道アイヌ、沖縄人、小笠原の欧米・ハワイ系住民、樺太アイヌと、明治維新のおりにすでに日本政府が統治の対象にしていた「大和人」に分けて、考察する。この分解が、日本の移民や植民を考えるときにも、見落としがちな日本のなかにある「民族」の視点を取り戻してくれる。
 「日本人」が広く移住した時代は、日本が主権国家として国境を画定し、外国に触れ、富を外に求め、そして戦争とともにあった。
 日本が支配した旧満州で日本人は、「在満日本人」だったのか、「日系満州国民」だったのか。ハワイで最大の民族集団だった日系人は、米国に対して中国や朝鮮半島からの移民とも連帯する東洋人系市民だったのか、それとも帝国日本の植民者だったのか。
 敗戦後、日本や米国統治下の沖縄へ戻った「引き揚げ」を、戦勝者の連合国側は「送還」と呼んだ。人の動きに焦点をあてた問題意識が、領土の争奪とは異なる戦史を描くことにも通じている。
 著者の関心の出発点がナショナリズムだったとするあとがきを読んでなるほど、と思った。いま日本列島に積みあがるナショナリズムと「大和人」の民族意識の関係など、現在の課題を考えるヒントが潜んでいる気がしたからだ。
 対象に据えた民族と地域の変数の多さから、約500ページの大著となっている。ぐんぐん広がる領域を本書で着地させたあと、どこへ向かうのだろうか。読み終えてはや、次作が楽しみになった。
    ◇
 名古屋大学出版会・6804円/しおで・ひろゆき 74年生まれ。琉球大学准教授。『岡倉天心と大川周明』など。

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