「脳はすごい」書評 意識下の「自分」との出会い
評者: 星野智幸
/ 朝⽇新聞掲載:2015年12月13日
脳はすごい ある人工知能研究者の脳損傷体験記
著者:クラーク・エリオット
出版社:青土社
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784791768851
発売⽇: 2015/09/18
サイズ: 20cm/328,4p
脳はすごい ある人工知能研究者の脳損傷体験記 [著]クラーク・エリオット
例えば駐車場の車まで歩くのに、まず右足を出して、次に左足を出して、また右、そして左、などと意識しなくてはならないとしたら、日常はとてつもなく重くなるだろう。
この本の著者は、車の追突事故で脳震盪(のうしんとう)になってから、それまで無意識に行っていた日常の動作の大半を、自動的にはできなくなっていく。
脳震盪になって以来、見慣れたものが、見慣れたものとして見えなくなったという。ひどいときは、自分の家が自分の家と感じられず、入ることが怖くなる。自分と空間の関係を見失う。そして、そんな自分が人間に思えない。
人工知能学者である著者の、精緻(せいち)な自身の記録から見えてくるのは、脳は私たちが意識しないところで、とてつもない量の情報を処理し、判断し、私たちの自然さを支えているという事実である。
この障害はしかも、視覚矯正とパズルを解く訓練で、治ってしまう。自分そのものである脳の可能性の壮大さに、未来を感じる一冊だ。
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高橋洋訳、青土社・2592円