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震災復興の政治経済学―津波被災と原発危機の分離と交錯 [著]齊藤誠

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年12月20日

[ジャンル]経済 社会

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■費用負担のあり方、鋭く問う

 東日本大震災の復興政策の枠組みを根本的に問い直す、優れた著作がついに現れた。高名なマクロ経済学者である著者が、現実と格闘して真実を掴(つか)み出そうとするその姿は感動的ですらあり、引き出された知見は衝撃的で、そのメッセージは我々に重く響く。
 とりわけ重要なのは、福島第一原発事故とその費用負担スキームの分析だ。事故で発生した損害賠償費用および廃炉費用について政府は、東京電力に無過失・無限責任を負わせたかに見えて、実際は、政府(「エネルギー対策特別会計」)が費用を負担している事実を鋭くえぐり出す。著者の試算によれば、損害賠償費用の真の負担割合は、税金や電力料金を通じて納税者(消費者)が82%、東電(東電株主)はなんと、わずか14%しか負担していないという。
 政府事故調の報告書など膨大な資料を読み解く中から著者は、大津波到来直後の状況は、非常時対応マニュアルで定められていた範囲と程度に収まっており、「想定外」とは言えなかったと指摘する。さらに、状況に応じてどう振る舞うべきかを定めた規範(「事故時運転操作手順書」)も定められていたのに、東電本社、吉田所長をはじめとする現場、原子力安全・保安院はそれを遵守(じゅんしゅ)せず、状況誤認に基づく誤った運転操作によって、本来は避けえたはずの炉心損傷と水素爆発を引き起こすに至ったことを次々と明らかにしていく下りは、圧巻だ。
 こうした経緯から、東電の経営者、株主、債権者(銀行)が当然引き受けるべき負担を事実上免責としてきた根拠は失われる。いまや、廃炉費用のために積み立てられた資金は枯渇しつつあり、現在の費用負担スキームは限界に達した。消費者や納税者になし崩し的に費用負担を強いるのではなく、株主、金融機関に対し、正当な費用を負担させる新しいスキーム構築を議論すべき時だ、という著者のメッセージは、傾聴に値する。
    ◇
 日本評論社・2376円/さいとう・まこと 60年、愛知県生まれ。一橋大学大学院教授。『原発危機の経済学』など。

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