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イケアとスウェーデン―福祉国家イメージの文化史 [著]サーラ・クリストッフェション

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2015年12月20日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■共感と消費を呼ぶ「物語」の力

 家具や雑貨を販売する巨大なイケアの店舗に足を踏み入れると、印象的なディスプレーとカタログ、開放された倉庫、簡単な組み立て商品など、独特の雰囲気にのまれ、つい思っていた以上に多くの商品を購入してしまう。今やイケアは世界28カ国に展開する企業として成功し、経営やデザインの視点から論じられてきた。が、本書は、イケアがどのような「物語」をつむぎだし、文化的なイメージを形成したかを分析している。
 国旗の青と黄を外装の色としたように、特徴はスウェーデンらしさの強調だが、スウェーデンも国家のブランド戦略としてイケアを利用するようになったという。もっとも、初期のイケアはフランス風の綴(つづ)りを社名に使い、商品名にもイタリアやアメリカを連想させるものがあり、本格的に世界進出した70年代からスウェーデンらしさを前面に出すようになった。
 イケアは、マッチ売りの素朴な少年が創業した自社の歴史を繰り返し書き、社内で価値観や行動の指針を共有し、広報戦略を練って対外的なイメージをつくりだしている。勤勉、節約、忍耐。あるいは、「より快適な毎日を、より多くの方々に」や「贅沢(ぜいたく)の民主化」。これらはデモクラシーや公正さといった福祉国家のイメージと重ねあわせられた。世界的に高く評価された北欧のモダニズムが築いたイメージも受け継ぐ。
 本書の著者は、こうした物語を批判的に検証し、必ずしもイケアの言う通りではない部分も指摘するが、非難することが目的ではない。われわれが機能的かつ経済的なモダニズムの商品を購入しているつもりが、実はポストモダン的に物語を消費していることを明らかにしている。そしてグローバリズムの時代において、軍事や経済のハード・パワーではなく、文化によって人々の共感を得る、企業と国家が相互補強するソフト・パワーの効果を描いているのだ。
    ◇
 太田美幸訳、新評論・3024円/Sara Kristoffersson 72年生まれ。スウェーデン国立美術工芸大学教授。

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