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「お菓子の図書館―ドーナツの歴史物語」書評 愛した国や社会を丹念に追う

評者: 本郷和人 / 朝⽇新聞掲載:2015年12月20日
ドーナツの歴史物語 (お菓子の図書館) 著者:ヘザー・デランシー・ハンウィック 出版社:原書房 ジャンル:暮らし・実用

ISBN: 9784562052523
発売⽇: 2015/10/23
サイズ: 20cm/206p

お菓子の図書館―ドーナツの歴史物語 [著]ヘザー・デランシー・ハンウィック

 ドーナツはむろんご存じだろうが、それを定義すると? これが実にたいへん。「ドーナツとは、卵を加えることもある、(100字略)内側はしっとりふんわり、ケーキのような食感の揚げ菓子をいう」。なぜこんなに面倒かというと、アメリカに定着するはるか昔から、人類は各地でドーナツ「らしき」ものを食べてきたから。本書はそれを丹念に追いかけ、ドーナツを愛した国や社会や人々の動向を明らかにしていく。
 ふと考える。日本のスイーツの歴史を語れる研究者がどれだけいるのか、と。私は朝廷の裁判制度史を研究したが、法廷とは縁のない人生を送りそうだ。一方でスイーツは毎日食べているのに、その来歴を何も知らない。多くの人に歴史学に親しんでもらうためにも、いま日本では本書のようなアプローチこそが求められているのではないか。身近なところに素材を求め、世界を視野に入れてしっかり考え、読み手を少し幸せな気持ちにする。そうした研究が。
    ◇
 伊藤綺訳、原書房・2160円