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プーチンの実像—証言で暴く「皇帝」の素顔 [著]朝日新聞国際報道部 駒木明義、吉田美智子、梅原季哉

[評者]星野智幸(小説家)

[掲載]2016年01月10日

[ジャンル]政治 社会 国際

表紙画像

■強権志向者が抱える孤独

 長らくチェチェン紛争からロシアを見てきた私には、最高権力者であるプーチンとは、強権志向の半独裁者であり、暗殺の横行する社会を許す冷血漢だと映っていた。なぜロシアの人々はそんな指導者を求めるのかを知りたくて、本書を開いたら、危うくプーチンの魅力の虜(とりこ)となりかけている自分に気づいて、驚いた。
 関係者約20人の証言からなるこの本を読んで、私はプーチンという人間をよけいわからなくなった。ステレオタイプなイメージで捉えると、足をすくわれてしまう。何しろ、人によって見え方がまったく違うのだ。冷たく、笑わず、内心の読めない人物だという者もいれば、ざっくばらんで率直で誠実だという者もいる。
 例えば、冒頭や4章では柔道の山下泰裕氏や森元首相との絆が詳細に描かれるのだが、ここでのプーチンの言動は、読者が心酔しそうになるほど魅力的だ。私はこんな姿のプーチンを知らなかった。
 現在はソ連時代への回帰をあからさまにしているように見えるプーチンだが、そもそもはKGBに属しながら、共産主義イデオロギーには批判的だった。その志向には、欧州への強い憧れがあるという。プーチンがしきりに口にする不満がある。冷戦崩壊でロシアは自らの影響圏を理性的に手放し、自由主義経済に切り替え、民主体制になった。にもかかわらず、欧州は我々を信用せず、同じ仲間として受け入れないばかりか、旧東欧諸国をNATOに加えて軍事的に包囲しようとさえする。リスボンからウラジオストクまで、というスローガンを掲げて、極東に至る大欧州経済圏を提唱しても、無視される。この失望と恨みが、今のプーチンを過去へと向かわせているのではないか、と本書は説く。
 独裁と孤独が表裏一体であることを小説で描いたのはガルシア=マルケスだが、本書はプーチンのそんな孤独を探り当てたといえよう。
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 朝日新聞出版・1944円/こまき・あきよし 66年生まれ、よしだ・みちこ 74年生まれ、うめはら・としや 64年生まれ。

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