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ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた [著]パット・シップマン

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2016年01月10日

[ジャンル]歴史 科学・生物 社会

表紙画像

■生態系への侵入、示唆に富む推理

 ネアンデルタール人は現生人類より前にユーラシアに居住していた。人類と同程度の知能をもち、同じように狩猟生活をしていた。火や石器を使用し、死者埋葬、芸術活動などもした。5万年前にアフリカから到来した人類と交流し、混血もあった。これまでの定説では、彼らは2万数千年前に絶滅したということになっていた。しかし、最近、彼らは4万年前に、しかも短期間のうちに絶滅したという新説が有力となった。本書はそれにもとづいて、どうして彼らが絶滅したのかを問うものである。このような新説が続々と出てきたのは、年代測定法とゲノム解析が急速に進展したからである。本書はそれらの成果をフルに活用して、絶滅の秘密を推理する。それはスリリングであり、また、さまざまな示唆に富む。
 ネアンデルタール人が絶滅したのは、気候変動のせいだといわれる。むろん、それは大きな理由である。が、何よりも、現生人類がユーラシアに到来したことが原因である。といっても、彼らが短期間のうちに死に絶えたのは、人類によって殺戮(さつりく)されたからではない。それを示すような痕跡も残っていない。人類が彼らを滅ぼした原因は、同じ生態系に侵入したこと自体なのだ。これは一般に、生態系に外来種が侵入したときに生じる現象である。それを扱う「侵入生物学」によれば、頂点捕食者(食物連鎖の頂点にあるもの)の変化が、植物にいたる下位の生物の存続に大きな影響を及ぼす。
 したがって、新たな頂点捕食者として、同様に大型動物を狩猟する人類が侵入したことが、ネアンデルタール人にとって大打撃であった。しかし、それでも、彼らが簡単に敗北した理由を説明できない。著者によれば、人間がオオカミを家畜化し、狩猟のパートナーとしたことが原因である。厳密にいうと、それは狼(オオカミ)でも犬でもない、オオカミイヌである。このことは、食肉のための家畜化よりずっと前に起こった。オオカミイヌはたんなる家畜ではない。ネアンデルタール人を圧倒したのは技術的発展ではなかった。それはむしろ、人類とオオカミイヌ、つまり、異なる狩猟者たちのアソシエーション(連合)なのである。
 当然ながら、本書は人類の勝利と優越を称(たたえ)え、言祝(ことほ)ぐものではない。本書の原題は「インベーダーズ」である。人類は無数の生物が関係する生態系の中で頂点捕食者として存続してきた種である。「侵入生物学」によれば、人類こそ最大の侵入者である。地球規模の大絶滅はこれまで5度あった。6度目のそれを引き起こそうとしているのが人類である。著者は今、人類が「他の種に対する役割と責任」を果たすべきだという。
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 河合信和監訳、柴田譲治訳、原書房・2592円/Pat Shipman 米ペンシルベニア州立大学名誉教授(古人類学)。著書に『アニマル・コネクション』、形質人類学者の夫アラン・ウォーカーとの共著に『人類進化の空白を探る』など。

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