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植物は〈知性〉をもっている—20の感覚で思考する生命システム [著]S・マンクーゾ、A・ヴィオラ

[評者]細野晴臣(音楽家)

[掲載]2016年01月10日

[ジャンル]科学・生物 社会

表紙画像

■石炭も薬も、人類を育んだ歴史

 人間は木々や花を愛(め)でる一方で、生活の都合やエネルギー源として利用してきた。動物はペットのごとく人間社会に組み込まれているが、擬人化するには異質な植物は、都市において群生を必要とされず、計画的に公園や道路に配置されているばかりである。なぜ異質なのか。植物には知性がないと思われているからだ。しかし本書は植物にも知性があると主張している。
 知性とは問題を解決する能力、と定義づけるならば、植物は人間の能力を遥(はる)かに超えている。何よりも、植物は30億年前に「光合成」という生命に欠かせない機能と共に地球に現れ、進化上の新米である人類を育んできた。石炭や病気を治す薬も、植物が提供してくれる。それでもなお、人間は進化の頂点にいるという自尊心から植物を見下してきた。まず、その歴史を本書は紐(ひも)解いてゆく。
 旧約聖書創世記では植物への言及が乏しいが、ノアは1本のオリーブの葉を咥(くわ)えたハトに生存の希望を見いだした。植物への対応は、無生物扱いされたり、時には崇(あが)められたりと矛盾だらけなのだ。なぜなら人間と植物は進化のサイクルが異なるからだという。動かないように見えるのは、それがあまりにも遅いからなのだ。根っこは地中で動き回るし、それは脳と同じ機能があるように見える。
 だが、そもそも植物は動き回る必要がないともいえる。植物はインターネットのようにつながり、分割や交換が可能なモジュール構造を持っている。種子は動物や風に運ばれ、化学物質を駆使して昆虫を操る。そして人間の五感を遥かに超える20もの感覚を持っていることが示される。
 植物は人間がいなくても生きていける。だが人間は、植物が太陽と共に準備した環境の中でしか生きていけないのだ。このことは今後の地球にとって最重要な課題である。世界観の転回を突きつける、刺激的な本に出会った。
    ◇
 久保耕司訳、NHK出版・1944円/Stefano Mancuso 伊フィレンツェ大学教授▼Alessandra Viola 記者。

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