書評・最新書評

鉄道への夢が日本人を作った—資本主義・民主主義・ナショナリズム [著]張イクマン

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2016年01月10日

[ジャンル]社会

表紙画像

■近代を規定する根強い物神崇拝

 鉄道は、学校や軍隊などとともに、近代になって初めて整備される社会インフラの一つである。この点では明治になって近代化が始まる日本も例外ではない。
 しかし、例えばアメリカでは20世紀初頭に早くも鉄道が廃れて自動車の時代を迎えたのに、なぜ日本では新幹線に見られるごとく、いまなお鉄道への根強い「信仰」が存在するのか。本書の著者である外国人の眼(め)には、鉄道は単なるインフラの一つではなく、まさに近代日本のナショナリズムを規定する「下部構造」として映ったのだ。
 本書は歴史社会学の視点を取り入れた政治思想史の研究書でありながら、主人公は有名な思想家ではなく、あくまでも鉄道という「モノ」である。鉄道が物神崇拝の対象となり、そこから言説化されない政治思想が形成されてゆく過程を、本書は見事に描いている。それは同時に、既存の学問体系に安住している日本のアカデミズムへの反省を鋭く迫ってもいる。
    ◇
  山岡由美訳、朝日選書・1728円

関連記事

ページトップへ戻る