書評・最新書評

ウォーク・イン・クローゼット [著]綿矢りさ

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2016年01月10日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■主人公の内面の起伏に一喜一憂

 著者が描く若い世代の物語に、50代中年男の私でも、ついつい引き込まれてしまうのはなぜか。
 本書所収の中編2編のうち表題作では、28歳のOL、早希が失恋の心の隙間を埋めるべく、「対男用」ファッションに身を包んで恋活に励むが、なかなか実らない。もう一編「いなか、の、すとーかー」では、故郷に戻ってきた若手陶芸家の透が、仕事は上り調子なのに、現れた女ストーカーに振り回される。
 著者は、柔らかい言葉を重ね、かゆいところに手が届くような心理描写が巧みだ。彼らの内面の起伏に同化し、一喜一憂を味わう感覚になる。主人公たちはやがて、周りの人とのつながりの中で再生していく。
 失われたものへの憧憬(しょうけい)、同じ悩みを持つ者への共感、読者の立場によっていろいろ感じ取っていいだろう。大上段に構えず、親しみやすい作品世界にしばし身をゆだねる時間が貴重に思えた。小説本来の楽しみがある佳作だ。
    ◇
 講談社・1512円

関連記事

ページトップへ戻る