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温泉の平和と戦争―東西温泉文化の深層 [著]石川理夫

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2016年01月31日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■「極楽」保つ大切さ、歴史でみる
 
 古来、人類は(そして、たぶん猿や鹿や鳥などの動物たちも)、温泉の気持ちよさと効能に気づき、温泉を大切にしてきた。本書は文献や実地調査を通し、古今東西の温泉が人々のあいだでどう位置づけられているのかを、丁寧に解き明かす。
 とはいえ、小難しい「研究書」ではない。全編に著者の温泉愛が充満しており、紹介される温泉に行ってみたくなる。時空を超えた温泉ガイドであり、温泉の歴史書であり、「人間にとって温泉とはなんなのか」を社会学、文化人類学、政治学的に分析してもいるという、楽しく刺激的な本だ。なにかを好きだという思いがあると、こんなにおもしろくて深い学問の境地に到達できるんだなあと、著者の着眼点と温泉へのあふるる愛に感動した。まさに源泉かけ流しレベルの温泉愛だ。
 洋の東西を問わず、温泉は「アジール(避難所・聖域)」として扱われてきた。戦で傷を負った兵士たちは、敵味方関係なく、同じ温泉に浸(つ)かって療養したらしい。温泉場はつかのまの平和を味わえる休戦地帯だったのだ。
 同時に、温泉の「発見」には、領土拡大や戦争が絡んでいることも多い。アメリカでは、先住民が部族を問わず大切にしてきた温泉を、ヨーロッパからの移住者が「発見」し、土地を買いあげてしまった。日本でも、戦国武将の「隠し湯」があるように、戦いと温泉は密接な関係にある。近代戦以降は、政府が温泉場を傷病兵の保養所にしたり、子どもたちの疎開先として指定したりした。
 温泉は心身を癒やすがゆえに、いざ戦争となると権力者の意向に振りまわされる。平和な共有の場が、占有の場に転じてしまう危機を、古今東西の温泉は何度も経験してきたのだ。「極楽、極楽」と温泉に浸かり、見知らぬひとたちと楽しく会話する。温泉の平和を保つのがどんなに大切か、本書は教えてくれる。
    ◇
 彩流社・2160円/いしかわ・みちお 47年生まれ。温泉評論家。『温泉法則』『温泉巡礼』など。


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