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誰がネロとパトラッシュを殺すのか [編著]A・ヴァン・ディーンデレン、D・ヴォルカールト

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2016年02月07日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■社会の価値観映し出す物語

 「パトラッシュ、疲れたろう……僕も疲れたんだ……なんだかとても眠いんだ」
 ネロの最期の言葉は日本ではネットスラングと化し、ツイッターでも頻繁につぶやかれる。英国の作家が19世紀に書いた原作は、明治時代に「清(きよし)」と「斑(ぶち)」を主人公に翻訳されて以来、絵本やアニメで親しまれた悲しい物語だ。
 しかし、その舞台であるベルギー・フランダース地方では、ほとんど読まれていない。さらに、原作や日本のアニメ、結末をハッピーエンドに変えた米国の映画に触れる機会を得た人の多くは、違和感やいらだたしさを感じるという。たとえば、日本のアニメで感動的とされる大聖堂でネロと犬が昇天する場面に飛ぶ天使を、「笑止千万」と。
 編著者のベルギーの学者たちは、現地と英国、米国、日本における物語の解釈の違いを通じて、それぞれの社会の価値観や自己認識を探る。虚構と現実の丹念な追跡と比較から、物語と「フランダース」に映る日本を再発見した。
    ◇
 塩崎香織訳、岩波書店・2808円


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