書評・最新書評

毒親の棄て方 [著]スーザン・フォワード 謎の毒親 [著]姫野カオルコ

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2016年02月14日

[ジャンル]歴史 社会

表紙画像

■呪縛を解けず、まるで妖怪

 子どもに精神的、肉体的な害悪を及ぼす親がいる。アメリカの精神医学者スーザン・フォワードはこれを「毒になる親(toxic parents)」と呼び、日本では2013年頃(ごろ)から「毒親(どくおや)」という言葉が用いられるようになった。
 『毒親の棄(す)て方』はスーザンの最新の本で、母と娘の問題を扱う。ここで彼女は毒親である母を(1)自己愛が強い (2)過剰に関わってくる (3)支配しようとする (4)世話することを要求する (5)ネグレクト・虐待をする の五つのタイプに分類し、実例を示す。その上で毒親の害悪をいかに乗り越えるかを説明する。
 「母性神話の否定」がキーとなる。母親は(無条件に)子どもを愛するものだ、というのはウソだ。そうスーザンは言う。この神話があるがため、母親から攻撃された子は「私が悪いからだ」と自分を責める。神話を葬り「親が悪いのだ」と正しく認識することで、子どもは長きにわたる親の呪縛から解放されるのだ。
 スーザンの教説を仕入れたばかりのぼくは『謎の毒親』のプロローグを読み、「よし。日比野光世さん(本書の主人公。著者の分身か)を救ってみせるぞ」と意気込んだ。日比野さんの両親の毒を分析し、謎を解き明かすのだ、と。
 甘かった。甘すぎた。スーザンが紹介する毒親は理解しやすい一般例である。だが日比野さんの両親は妖怪の風格をもつ。重苦しくて薄気味が悪い。何が何だか、分からない。正体が見通せないので、対処法も見いだせない。ぼくのような素人が祓(はら)うなんてとてもムリ、というシロモノ。
 日本には長い歴史がある。家や親の伝統的な支配力には年季が入っていて、強大な力を有する。一方で戦後の近代化は社会を、人間を、急速に変化させてゆく。伝統と変化のギャップ。それが親と子の対決に姿を変えたとき、妖怪のような毒親が生まれる。しかし、何ともすさまじい本である。救いは、ほぼない。
    ◇
 羽田詩津子訳、新潮社・1620円/Susan Forward▽新潮社・1728円/ひめの・かおるこ 58年生まれ。作家。

関連記事

ページトップへ戻る