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アトランティスへの旅―失われた大陸を求めて [著]マーク・アダムス

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2016年02月14日

[ジャンル]歴史 文芸

表紙画像

■愛の影に取り憑かれた人々

 アトランティスは、プラトンの著作のなかで言及された島だ。とても栄えていたのに、一晩で海に没したという。大半のひとは、アトランティスなんて作り話だと思っているだろう。
 ところが、アトランティスの実在を信じ、熱心に探しつづける人々が、世界中にたくさんいるのである! モロッコ説、スペイン説、マルタ島説、クレタ島説、アメリカにあった説(!)などなど、説が百花繚乱(ひゃっかりょうらん)状態。しかも、統計学を駆使したり、地形を分析したり、神話を研究したり、考古学的にアプローチしたりと、それぞれの説には「なるほど」と思わせる根拠がある。
 本書の著者は、説得力のありそうな説を唱える人々のもとを訪ねて話を聞き、アトランティス候補地を見て歩き、自分でもあれこれ検証しはじめる。アトランティスを探し求める人々に、惹(ひ)き寄せられるかのように。
 本書に登場する人々の情熱といったら! 家庭生活は円滑に営めているのだろうかと心配になるほど、熱意と時間(と、たぶん金も)をアトランティス探しに大幅に傾注している。熱気にあてられ、私も著者とともに、各説について真剣に考えださずにはいられなかった。
 「業(ごう)」という言葉が思い浮かぶ。本書で描かれるのは、アトランティスという業に取り憑(つ)かれた人々の姿だ。かれらは愛するもの(=アトランティス)の影を追いつづけている。楽しくも孤独な旅だ。でも、うらやましい気がする。一生をかけても悔いがないぐらい、心奪われるもの。かれらはそれに出会えたのだ。
 本書に登場する人々が虚脱してしまうといけないから、アトランティスにはこのまま海底で眠りつづけてもらったほうがいいのかもしれない。個人的には、「作り話」ではないと思うに至りましたが!本書を読んで、ぜひみなさまも考えてみてください。
    ◇
 森夏樹訳、青土社・2808円/Mark Adams 米国の作家、ジャーナリスト。『マチュピチュ探検記』など。

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