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未成年 [著]イアン・マキューアン

[評者]大竹昭子(作家)

[掲載]2016年02月14日

[ジャンル]文芸 社会

表紙画像

■「意思」と「生命」、尊重すべきは

 イギリスを代表する小説家イアン・マキューアンは、次はどんなテーマで来るかと毎度固唾(かたず)を飲ませる人である。彼のものなら内容の如何(いかん)にかかわらず手にとるという読者は多いはずだ。今回はイギリスの法曹界が舞台、主人公は女性裁判官フィオーナ。白血病の少年が宗教上の理由で輸血を拒む。十八歳以上ならその意思が尊重されるが、それには三カ月足りない。彼の判断が適切かを決める裁判をフィオーナが担当する。
 この社会的なテーマに、間もなく還暦を迎える夫婦の危機という彼女自身の問題が絡められる。ふたつを結びつけるのは年月と成熟というテーマだ。法は成人に三カ月足りないことを理由に少年の意思に介入し、間もなく六十の夫は、忙しさを理由に彼と七週間と一日も(!)ベッドを共にしていない妻にキレて家出する。
 前半でフィオーナの有能さが語られたあと、判決のために彼女がとった大胆な行動が引き起こしたさまざまな事象へと話が移っていく。ネタバレになるので詳しく書けないが、この後半部についてはさまざまな議論が可能だろう。私は友人と一時間以上にわたって口論した。意思と生命とどちらを尊重すべきかという社会的なテーマが個人的な問題に収斂(しゅうれん)される終わり方に、人生の大半をアメリカで過ごしてきた友人は批判的だった。確かに彼の地ではこのような結末は受容されにくいかもしれず、この小説がイギリスの作家によって書かれたことを噛(か)みしめたのだが、それでも読みながら興奮したことには変わりない。
 法は月日が人を成熟させるという前提のもとに作られる。未成年という概念の根拠もそこにあるが、一方、ふたりの私生活は法の期待とは裏腹の事態となっている。理性と感情、仕事と私生活、生命と個の意思など、いろいろなテーマが抽出できるだろう。読書会に最適な一冊!
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 村松潔訳、新潮社・2052円/Ian McEwan 48年生まれ。『アムステルダム』でブッカー賞。『贖罪』『初夜』など。

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