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戦場の性―独ソ戦下のドイツ兵と女性たち [著]レギーナ・ミュールホイザー

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2016年02月28日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■戦時の性暴力を赤裸々に調査

 著者は1971年生まれの歴史学や近代ドイツ文学の女性研究者、第2次世界大戦は史料でしか知らない。
 それゆえにということだろうが、41年6月の独ソ開戦とともにドイツ軍が制圧した旧ソ連の国々でドイツ軍将校、兵士による性暴力がどれほど広範囲に行われたかをきわめて赤裸々に調査しえたのであろう。論点も独特である。ドイツ軍兵士の性を正規の国防軍とナチス親衛隊とに分け、さらに占領地での性もレイプ、売春施設での性、それに「合意」「取引」としての性などに多角化、限定化することでヒトラー政権下のドイツ軍兵士の実態を捉えている。戦争の性には思想、哲学、歴史、文化などあらゆる面が込められていると分析するのである。
 国防軍はドイツ兵に対して軍紀を守り、性病防止に力点を置き、「祖国に健康な子孫を与え」るよう呼びかける。親衛隊の指導者ヒムラーは「親衛隊の氏族共同体」のもと各人は4人の子どもをつくれと訴える。そして具体的に学習用ビラに性病の症状を書き、注意を促す。
 人種的差別としての「ゲルマン人の血の優位」はさまざまな局面に反映していて、ユダヤ人女性と関係をもつことは禁止されていた。同時に、東方圏女性への蔑視などが多くの性犯罪の背景にあった。第2次世界大戦で全戦線に動員された1700万人のドイツ兵のうち、「性犯罪」で有罪判決を受けたのは44年までにわずか5349人、「脱走」「自傷行為」などの有罪判決150万件と比べると極端に少ない。国防軍の軍法会議は性犯罪に「低い重要性しか認めていなかった」と指摘する。
 ドイツ制圧地域では現地女性とドイツ軍兵士の間に多くの子どもが生まれた。差別の中で生きた彼らの姿が明らかになったのはやっと21世紀に入ってから。東部戦線の性犯罪解明は今後の課題と説く。重い指摘である。
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 姫岡とし子監訳、岩波書店・4104円/Regina Muhlhauser 71年生まれ。ハンブルク社会研究所研究員。

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