書評・最新書評

キャラの思考法―現代文化論のアップグレード [著]さやわか

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2016年02月28日

[ジャンル]社会

表紙画像

■時とともに移ろう属性・価値

 現在、漫画やアニメ、ゲームなどのオタク文化を論じる人文書はすでに珍しくなくなったが、本書の特徴は、キャラの概念を更新しながら論の枠組みを広げ、小説、音楽、映画、演劇、芸能などの分野も横断する批評を試みた点である。
 本書は、伊藤剛の漫画批評が二次創作を視野に入れて提示した「キャラクター/キャラ」論に依拠し、キャラクターが登場人物を指すのに対し、キャラはその人物の特徴を指す。が、ユニークなのは、コミュニケーションによってキャラが書き換え可能になるという動的な見方を提示したことだ。すなわち、キャラが時間的な推移の要素をもつことを重視する。そして、コンテンツ消費が衰退しコミュニケーション消費に移行したという単純な図式で近年の動向が語られるのに対し、本書はコミュニケーションが物語に組み込まれていくという新しい分析のモデルを提示する。
 ゲーム史やアイドル史をひもときながら、現在を読み解く本書の射程は広い。例えば、公式なキャラが設定されていない白紙の存在ゆえに多くのユーザーが理想の姿を描くことができる初音ミク。電子紙芝居化した『ひぐらしのなく頃に』や『ラブプラス』においてプレイヤーの物語への介入がゲーム外部で行われること。したがって、作品がパッケージ化された完成形をもたず、継続的な時間を作って提供されるようになったという。また残念なイケメン論では、もはやイケメンも残念な特性も等価なキャラ要素となったことを指摘し、自分はイケメンというキャラだと勘違いしたキャラで人気を博した狩野英孝をとりあげる。
 確かに大所帯のアイドル、学校生活、ロックバンドなどでも、キャラの獲得が求められるが、それは固定化するものではなく、改変可能な自由さももつのだ。時間性をもったキャラ概念は、もっと過去の作品分析にも応用できるのではないかと思われた。
    ◇
 青土社・1944円/著者は74年北海道生まれ。ライター、物語評論家。『僕たちのゲーム史』『一〇年代文化論』など。

関連記事

ページトップへ戻る