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坂の途中の家 [著]角田光代

[評者]

[掲載]2016年02月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 目の前の被告は、私そのもの——。
 幸福いっぱいの主婦が、補充裁判員として関わることになった、見ず知らずの主婦の裁判。物分かりのいい夫がいるにもかかわらず、幼子をあやめた被告に、知らず知らずのうちに自らを重ねてしまう。他の裁判員からはまるで理解されないが、事件に至る被告の心の動きが、この主婦には手に取るように理解できてしまう。そのことに気づいた瞬間、恐ろしさに身震いする。
 夫との、姑(しゅうとめ)との、普段なら何とも思わないような「よくある会話」が、主婦を孤独のふちへと追いやっていく。人情の機微を丹念に繊細に描く筆致に圧倒される。無垢(むく)な赤ん坊に向けられる残酷な衝動が静かにふくらみ始める。
    ◇
 朝日新聞出版・1728円

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