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移民からみるアメリカ外交史 [著]ダナ・R・ガバッチア

[評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)

[掲載]2016年02月28日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■建国神話の裏に出身地との絆

 「今日、アメリカ合衆国の政策議論において、移民は主に国内の問題であると見なされており、(中略)本書が提案するのは、移民政策を国内のみの視点からではなく、グローバルな視点から議論すべきだということである」。えっ、これは意外。移民をもっぱら国内問題とみなす、その姿勢こそアメリカ的、なのか。
 各章で年代順に語られる移民政策と国内世論、国際情勢を、まずは追ってみる。移民問題が通商外交の問題だった時代、帝国の成長と人種主義、戦争と移民排斥、そしてグローバル化。そこに一貫して在るのはアメリカの自意識形成に関わる、恐れの感情だ。
 旧世界を捨て新天地へ、というアメリカの建国神話は強固で、相当数の移民が帰還したことや、アメリカ市民になっても出身地を「文化的故郷」とみていた事実を覆い隠してしまう。この神話は、アメリカは世界から孤立した国家だ、あるいはそうあるべきだという、もうひとつの強固な神話に結びついている。神話の根に著者は、独立直後の不安定な若い国の心理をみる。
 新移民の脅威から自分たちを守らなくては、という排外主義への固執は、かつて先住者を追いやった入植者の子孫が抱く、既視感と不安ゆえだろうか。メキシコの牧場を地元農民に奪われまいと、夫亡き後ひとり銃をもって見回ったアイルランド系アメリカ人女性の例は、印象的だ。じつは本書の特徴は、こうした個人のライフヒストリーと、政策史の交差にある。20世紀初頭の中国商人チャンの一族年代記など、まさに小説より奇。
 移民が出身地との絆を代々維持してきたことを、著者は繰り返し強調する。故国のために行動する移民の子は昔からアメリカにいたのだ。だが「ほとんどのアメリカ人は、移民たちが故郷の政治闘争にかかわってきた長い歴史について知らなかった」。この認識からどう進むかが、アメリカの今後を左右するのだろう。
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 一政(野村)史織訳、白水社・3456円/Donna R.Gabaccia カナダ・トロント大学教授(ジェンダー、労働、食文化)

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