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よこまち余話 [著]木内昇

[評者]

[掲載]2016年03月06日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 細くのびる路地に沿っている長屋の一番奥。齣江はお針子を生業にひっそりと暮らしている。尋常小学校に通う浩三が齣江を慕って遊びに来る。中学校に上がりたいが家業の魚屋では学費が出せず、あきらめかけている。長屋をとりまく人間模様が少しずつ浮かび上がり、能の舞台を媒介にするようにして「時の境界」が溶けだすと、「この世」は輪郭を失う。どこでその境を越えたのか。気がついたら読者も、浩三とともに連れて行かれる。この世では、もう会うことがかなわない人に、出会うことができるどこかへ。人の思いは、「時の境界」をも溶かすほど強いのか。そのせつなさが静かに迫ってくる。まるで魔法にかけられたように。
    ◇
中央公論新社・1620円

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