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医療政策を問いなおす [著]島崎謙治/貧困大国ニッポンの課題 [著]橘木俊詔

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年03月06日

[ジャンル]経済 医学・福祉 社会

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■「人々の幸福」見据えた改革とは

 日本の医療制度が様々な問題を抱えているのは事実だ。他方でそれは、世界で最も成功している医療制度でもある。国際比較に照らしてみれば、日本の医療は国民皆保険のもと、誰もが医療機関にアクセスでき、比較的高い水準の医療を保ちつつ、医療費の制御に成功している。問題は、今後もその成功が続く保証はないことだ。
 経済成長は低迷し、人口は今後減少して、高齢化が急速に進む。医療費の膨張は必至だ。それを支える財源は、今後先細りになる。その行きつく先を冷静に分析し、改革に着手しなければ、日本の優れた制度の崩壊は避けられない、というのが島崎の警告だ。
 改革の柱は財源論だ。社会保険料については、現役世代に比べて軽減されている高齢者の保険料負担を引き上げ、保険料収入を増やす努力が必要だ。消費税は、税収が安定しており、輸出還付で日本企業の国際競争力に影響を与えない点で優れている。消費増税は、今後の医療費膨張を賄う上で、不可欠だ。
 橘木もまた、日本の貧困・格差問題が深刻化する中で、社会保障を充実し、それを消費増税で賄う必要を説く。特に彼が強調するのが、教育と児童・家族への支援で、日本の財政負担比率が先進国で最低水準となっている点だ。日本の社会保障支出は高齢者に偏っている。貧困・格差是正には、若年層への公的支出をむしろ強化する必要がある。
 公的支出増大論は、成長にマイナスだと批判を受けがちだ。だが橘木らは、教育が賃金上昇にもたらすプラスの影響を実証的に確かめている。教育への公的支出拡大を通じて、国民の広い層の人的資本形成を促すことが成長に寄与し、将来の税収増につながる。なによりも社会政策の充実がもたらす安心感は、経済の本来の目的である「人々の幸福(満足度)」を高めるのだ。これが、本書の最大のメッセージである。
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 ちくま新書・994円/しまざき・けんじ 社会保障政策▽人文書院・1836円/たちばなき・としあき 労働経済学

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