書評・最新書評

レモン畑の吸血鬼 [著]カレン・ラッセル

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2016年03月13日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■生の断面鮮やか、奇想天外な物語

 カレン・ラッセル『レモン畑の吸血鬼』は、一作ごとにまったく違う味わいの、八編の小説を収める。「お国のための糸繰り」は、明治期の日本、製糸場と女工の労働への関心から発想されたという。一部、史実を下敷きにしているが、怪奇性も感じさせるファンタジックな作品だ。
 製糸場に集められた女たちは〈蚕女工〉となる。蚕の化け物のような存在。その体から出てくる生糸が機械に巻き取られていくのだ。熱湯に手を入れると「すぐに指先の肌は柔らかくなり、皮膚がはじけ、そこからきめ細かい繊維がゆらゆらと立ちのぼる。わたしの静脈から緑色の糸がじかに出てくる」。労働とその環境の仕組みにまつわる問題が、著者の想像力によって未知のかたちに仕立て直され、語られる。〈蚕女工〉の奇抜さはずしりと響いて、読めば忘れがたい。
 イラクの戦闘地域から戻った男と、マッサージの仕事をしているベヴァリーの交流を描く「帰還兵」は、心の傷を扱う。ザイガー軍曹は苦しんでいる。イラクにいたとき、不意に起きた爆発で、同じ小隊にいたマッケイが命を落とした。現場にいた軍曹はその記憶に深く取りつかれ、逃れられない。軍曹の背中全体にタトゥーが入っている。それは、爆発の日の景色だという。マッケイの記念碑を、肌に刻んだのだ。身体(からだ)と記憶と景色が一体となり、傷となっている場に、ベヴァリーは直面する。他人の苦痛を引き受ける彼女は、自分の弱さとも向き合う。小説にできることとは何か、作品自体が考えているような作品だ。
 血を吸う代わりにレモンにかじりつく吸血鬼夫婦を描く表題作や、馬に転生したアメリカ歴代大統領が登場する「任期終わりの廏(うまや)」なども、著者の筆力の幅を伝える。いま切り出されたばかりの生の断面、と呼びたい短編の数々。奇想天外。けれど、じつになまなましく、鮮やかだ。
    ◇
 松田青子訳、河出書房新社・2916円/Karen Russell 81年生まれ。作家。『スワンプランディア!』など。

関連記事

ページトップへ戻る