書評・最新書評

たんぽぽ団地 [著]重松清

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2016年03月20日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■時空を超える不思議な一体感

 児童文学作家の古田足日(たるひ)は1972年に『ぼくらは機関車太陽号』を出版した。「赤旗日曜版」に掲載されたこの物語は、学校行事について自ら考え行動する団地の小学生たちを主人公とし、彼らが団地を背景として本の表紙に大きく描かれていた。
 それから43年後、重松清は『たんぽぽ団地』を出版する。「しんぶん赤旗日曜版」に連載された団地を舞台とする物語という点で、確かに『ぼくらは機関車太陽号』と似た面はある。しかし表紙に団地は描かれても、小学生たちは描かれない。たそがれの迫る団地の棟々を見守っているのは給水塔だけだ。
 1960年に完成したつぐみ台三丁目団地、通称たんぽぽ団地は、スターハウスと呼ばれる斬新な棟が八つあり、73年には少年少女向けのドラマの撮影まで行われたが、老朽化のため建て替えが決まった。この40年あまりの間に団地の小学生は激減して高齢者ばかりになり、空き家も増えた。だがなくなる前に、もう一度団地でドラマを撮影することになり、現在の小学生やかつての小学生、そしてその親や教師たちが時空を超えて次々と立ち現れる。
 この点で面白いのは、「時空たつまき」というSF的な装置が取り入れられていることだ。これによって団地の風景が2014年から1973年へと切り替わる。団地にいたことのある住民がみな給水塔の下に集まってくる最後の場面は感動的である。
 私も団地に長年住んできた。73年当時の団地がどれほど輝いていたか、その光景はいまでもありありと眼前に浮かんでくる。一戸建てとも民間のマンションとも異なるあの不思議な一体感は何だったのか。20世紀後半の日本の大都市郊外に一時的に出現したコミュニティー空間は、決して郷愁だけで語られるべきではない。著者が本書で最も訴えたかったのも、まさにこのことではなかったか。
    ◇
 新潮社・1728円/しげまつ・きよし 63年生まれ。作家。『エイジ』『ビタミンF』『峠うどん物語』など。

関連記事

ページトップへ戻る