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震災学入門—死生観からの社会構想 [著]金菱清

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2016年03月27日

[ジャンル]医学・福祉 社会

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■「幽霊」も現実、当事者のケアを

 震災について考えた本は数多くあるが、とりわけユニークな一冊が登場した。これまであまり注目されなかった事例を紹介し、被災者という当事者性について考えることの大切さに気づかせてくれる。
 心のケアの重要さが叫ばれる。多くのカウンセラーが被災地を訪問する。しかし地元では、「精神科の先生のお世話になるほど、おかしくなっていない」と拒否される。精神科にも、カウンセリングにも、忌避感があるためだ。そこで、メンタルヘルスとは関係のないレクリエーション活動などで被災者とつながる工夫が行われている。
 病院に通うように促す、あるいは医師が自ら啓発活動に足を運ぶ。それだけが「心のケア」の方法ではない。地域の自治会を立ち上げ、お茶を飲みながら語らえる場所をつくる。被災体験を文章にまとめてもらい、肩の荷をおろしてもらう。こうした小さな試みの数々も、心のケアの役割を担っている。
 「幽霊を見た」という語りがある。震災によって、身近な者の死を実感しがたい人がたくさんいる。そんな人たちにとって、霊に関する語りはどう聞こえるだろう。死者からのメッセージをもらったと捉え、それで生きる力を得る者もいるのではないか。現代において幽霊語りは、不合理なものの象徴だが、それに触れたと感じた当事者にとっては、自分が喪失したものについて考える契機にもなっている。偶発的な、心のケアの機能とも言える。
 これまで、専門家の立場から、様々な復興提言が数多くなされた。しかし、当事者不在と思える議論も少なくない。外から「合理的な結論」を押し付けるのではなく、断片的エピソードの数々から、まずは被災した当事者のリアリティーに寄り添ってみる。すると、一見「不合理」に聞こえるような話から、幅広い「震災の教訓」「復興のヒント」が見えてくる。
    ◇
 ちくま新書・821円/かねびし・きよし 75年生まれ。東北学院大学教授(社会学)。『震災メメントモリ』など。

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