「グッド・フライト、グッド・ナイト」書評 非日常の空間、淡く美しき世界
評者: 佐倉統
/ 朝⽇新聞掲載:2016年03月27日
グッド・フライト、グッド・ナイト パイロットが誘う最高の空旅
著者:マーク・ヴァンホーナッカー
出版社:早川書房
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784152096036
発売⽇: 2016/02/24
サイズ: 19cm/341p
グッド・フライト、グッド・ナイト [著]マーク・ヴァンホーナッカー
飛行機に乗る前は、いつもちょっとわくわくする。非日常的な空間に浸る楽しみが待っているからだ。
ぼくはこんな月並みで無粋な表現しかできないが、747のパイロットである著者は五感をフルに活用して、空の旅にまつわるあれこれを繊細で美しいエッセーに仕立て上げてくれた。夜の町の光のうつろい。気温と機体の温度。行く先々のにおい。雲や霧や太陽。風の肌触り。
横糸には全体のパターンを広く把握する想像力。縦糸には記憶の物語。これらを絶妙な手つきで絡ませながら、非日常空間の物語が、美しく、淡く、綴(つづ)られていく。翻訳が、またすばらしい。
機械を語るときも冷たくならず、人間を語るときもべたべたしない。近すぎず、よそよそしすぎず。暖かく適度な距離感が保たれる。
機上で読むのがベストだろうが、地上で読んでも、1ページごとに自分の想像力が澄んでいくのがよくわかる。そして、飛行機に乗りたくなる。
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岡本由香子訳、早川書房・1944円