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サイロ・エフェクト—高度専門化社会の罠 [著]ジリアン・テット

[評者]加藤出

[掲載]2016年04月03日

[ジャンル]経済 社会

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■組織の細分化を人類学的に分析

 日本の基幹産業として高い技術力で世界を席巻してきた家電・電子産業は、なぜこんなに短期間に凋落(ちょうらく)してしまったのだろうか?
 その答えを探すことは日本経済にとって重要である。なぜなら現時点で競争力を持っている産業もいつ何時同じ境遇に陥るか分からないからである。
 その点で、本書が展開する組織論は貴重な示唆を与えてくれる。サイロとは、牧場で見かける牧草や穀物の貯蔵庫のことだ。組織が大きくなると、専門化した部署同士の交流が乏しくなり、サイロのような孤立した部署が多数できやすくなる。それは問題を多々発生させてきた。
 サイロがイノベーションの芽を摘んだ典型例として、真っ先にソニーが紹介されている。同社はデジタル音楽プレーヤーの開発に必要な人材、技術、関連組織を全て持っていたがアップルに大敗した。サイロ化により、「かつては創造力にあふれていたソニーの技術者たちは、際限のない縄張り争いに巻き込まれ、協力する意思や能力を失ってしまった」。
 他方で、サイロ問題は金融危機の原因にもなった。欧米の金融当局や大手銀行の幹部は、心理的な視野狭窄(きょうさく)や部族主義に陥り、情報を共有できなかったため、危機につながるリスクを管理できなかったのである。
 しかしながら、サイロ問題の克服にチャレンジしている人々もいる。フェイスブックの幹部はソニーの失敗を深く研究してきたという。「自分たちはこうはなりたくない」と確認しながら、サイロを防ぐための本社屋の構造、新人研修、人事システムに積極的に投資してきた。
 通常の組織論は、経営学や心理学を基に論じられている。しかし、著者はケンブリッジ大博士コースで社会人類学を学んだ異例の経済ジャーナリストだ。同氏はこれまでも人類学の観点から金融政策などを鋭く論じてきたが、本書でもそれが遺憾なく発揮されている。
    ◇
 Gillian Tett フィナンシャル・タイムズ紙アメリカ版編集長、コラムニスト。

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