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瀬川昌久自選著作集1954−2014 [著]瀬川昌久

[評者]細野晴臣(音楽家)

[掲載]2016年04月03日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■日米のジャズ史を克明に記録

 音楽を聴くことは、すなわちレコード盤に耳を傾けることだった。誰しもその解説を読んで知識を得たものだ。著者も子供の頃、そこから多大な影響を得たという。野川香文、野口久光らの名解説はその後も多くの愛聴家を育てたが、著者自身も戦前戦後のアメリカと日本のジャズ史を研究し、克明に記録し続けた。
 分厚い本書を読み始めると、まずは渡米日記が楽しい。1950年代末には既にジャズも衰退しつつあり、ロックンロールが若者を魅了していたが、そんな時代の変わり目のニューヨークに滞在した記録である。当時、著者は銀行員だったが、ナイトクラブで日々過ごした様子も興味深い。
 デューク・エリントンのバンドを見て、その中の1曲が練習不足だったことなどレアな話もある。当時封切りされていたミュージカル映画の感想もワクワクさせられる。ここに詳細に記された楽曲などは、今ではネットのアーカイブでチェックできるが、それを聴きながら著者の見聞を追体験できるのは読書の枠を超えた新しい発見だった。
 特筆すべきは、ジャズの見聞録がアメリカから日本に向けられる点だ。日本の音楽家の努力や才覚を決して忘れてはいけないとの著者の意思は、継承する価値がある。なぜなら、現在の「アーティスト」もその渦中にいる当事者だから。
 中盤にはモダン・ビッグバンドの系譜が詳細に検証され、ジャズの貴重なプロファイリングともなっている。ジャズという実験装置に貢献した音楽家を漏れなく網羅し、アメリカだけではなく日本のジャズ史にも多くのページを割く。得難い知識が享受できる。
 ジャズの魅力は全世界に浸透し、ポップカルチャーの源泉ともなった。僕が音楽を続けるのもその文脈から出ることはない。誰もやっていないことを目指すのが音楽家の志ではあるが、実は先人が発見した果実を食べて育ったのだ。そんなことも学べる書物である。
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 せがわ・まさひさ 24年生まれ。音楽評論家。大谷能生との共著に『日本ジャズの誕生』など。

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