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危機と劇場 [著]内田洋一

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2016年04月03日

表紙画像

 演劇は人間の身体がライブで表現を行う、もっとも瞬間的な強度をもつ芸術のジャンルだ。が、美術のようにモノが残らず、複製芸術でもないから、経験は消え去っていく。その時に現場で立ち会わないと共有しにくい。本書は、東日本大震災と演劇/劇場をめぐる時評集だ。長く舞台芸術を取材した著者が、3・11後に何が起きたかを記録した貴重なドキュメントにもなっている。また、阪神淡路大震災当時の神戸に暮らし、その後の演劇界に立ち会ったことを今回の状況に重ねあわせた考察も興味深い。
 東北では黒森神楽など、豊かな民俗芸能が早くから復活した。避難所における芸術の浄化作用、被災後に多くの劇団が存続の危機に陥ったこと、そして『ブルーシート』や『祝(しゅう)/言(げん)』、『東の風が吹くとき』、『光のない。』、やなぎみわの三部作など、3・11が影響した作品が論じられる。今回、日本の脆弱(ぜいじゃく)な文化のインフラが露呈しつつも、根源的な劇の力が試されたのだ。

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