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新「ニッポン社会」入門―英国人、日本で再び発見する [著]コリン・ジョイス

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2016年04月10日

[ジャンル]社会

表紙画像

■貪欲すぎ!知識が生活必需品?

 Youは何しに日本へ? おかしな本だ。日本に長く住んで、帰国後もちょくちょく来日している英オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻したイギリスのジャーナリストが、日本人の日常会話のような親しみのある文体で語る日本論である。
 書名から一見すると外国人のための日本社会入門書と勘違いするが、実は日本人のための「ニッポン社会」入門書だ。日本の不可解(彼にとって)な魅力に狂的なまでにとりつかれた著者が次第に昔の日本人になりすましていくプロセスがおかしくてたまらない。
 重箱の隅を突っつくような日本の歴史や文化の知識と、知っても大して役に立ちそうにない言葉を、ペロッと座布団を裏返しにする日本の古い風習のごとくマジカルに見せて悦に入る。日本通を気取って仲間のイギリス人に自慢する。それが物知り博士を演じる「変な外人You」と映る。
 今では見向きもされない過去の日本語や生活習慣をドラキュラが血を吸い取るように彼の体内で栄養化するとき、日本人の私は知的貧血を起こしそう。
 何でも見てやろう、知ってやろうという彼の貪欲(どんよく)な知識欲には鳥肌が立つ。なんでそんなに知識が生活必需品なの? 笑ってばかりおれない。知識と情報に貪欲なのは日本人も同病。何か「寒いもの」(彼はこーいう表現をきっと喜ぶに違いない)を感じてしまう。
 彼の日本に対する好奇心はちょっと異常であるが、昔のイギリス人の植民地支配欲を無批判に笑っているだけじゃ無知な日本人はアホではないかと、思わず自己反省をさせられる。
 本書を読みながら気づくことは、彼を通して実はわれわれはイギリス人のものの考え方とイギリス社会を学ばされていることだ。
 というふうに、本書は結局、今日のニッポン社会論というより、むしろ遠くなりにけりの「旧ニッポン社会」の美徳の再学習と読んだ方が賢明ではないのか。
    ◇
 Colin Joyce 70年英国生まれ。フリージャーナリスト。著書に『「アメリカ社会」入門』など。


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