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解放のパラドックス―世俗革命と宗教的反革命 [著]マイケル・ウォルツァー

[評者]杉田敦(政治学者・法政大学教授)

[掲載]2016年04月10日

[ジャンル]歴史

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■伝統をふまえた変革の可能性

 帝国主義的な植民地支配からの民族の解放は、たいてい、世俗的な政治勢力、すなわち宗教に批判的で、国民の一体性としてのナショナリズムを強調する勢力によってなされた。ところが、実際には解放者たちの「勝利」もつかの間、宗教的な勢力が復興し、いつしか特定の宗教が支配的な地位につくことが多い。そうなるのはなぜか。
 著者ウォルツァーは、アメリカを代表する政治学者の一人であり、人権などの普遍性を認めながらも、それぞれの社会の伝統の重要性を強調する議論で知られる。1965年のデビュー作『聖人たちの革命』で17世紀イギリスの内戦とプロテスタント信仰との関係を論じた彼は、改めて宗教の根強さについて述べる。
 取り上げられるのは、イギリスからの独立を推し進めたインド国民会議、イスラエルを建国した労働シオニストたち、そしてアルジェリアのフランスからの独立の担い手であった民族解放戦線である。
 いずれの場合も、解放を進めた人びとは、実は敵である「帝国の支配者から多くを学び、学んだことを解放のために用いた」。独立や人権といった理念は、その社会の内部からでなく、外部から導入された。解放者たちは、「外部の立脚点」に立って、一般の人びとを容易に改造できると考えたが、挫折する。
 たとえば、イスラエル建国の際には、自分たちと同様の権利をパレスチナ人たちにも認めるべきだという考え方があったが、宗教的動機からパレスチナ人を抑圧する勢力が台頭してしまう。
 マルクス主義者たちは、ナショナリズムも宗教も所詮(しょせん)は根拠のない「虚偽意識」だからだと説明するが、ウォルツァーはそうは考えない。伝統をふまえつつ、「反復的なプロセス」としての解放を進める余地があるとする。
 各地で宗教の復興と人権思想の退潮が進むいま、受けとめたいメッセージだ。
    ◇
 Michael Walzer 政治学者。著書に『正しい戦争と不正な戦争』『正義の領分』『寛容について』など。


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