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温泉妖精 [著]黒名ひろみ

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2016年04月10日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 ラーメンについて辛口の評価を下すブログで点数の高い店に行ったら、大した味でなくがっかりした——この種の体験をした人もいるだろう。本書の主人公の女性は、ゲルググというハンドルネームをもつ男性の温泉に関する辛口のブログを愛読している。そして唯一酷評されない東北の旅館に行ってみたら、そこは温泉ですらない貧相な宿だった上、ゲルググ本人と鉢合わせてしまう。あげくの果てには、この絶対に出会うはずのない一対の男女が、風呂場で裸のまま向き合ってしまうのだ。
 美容整形して外国人を装っている女性と、温泉通を装っている男性が、互いの「鎧(よろい)」を脱ぎ捨てて文字どおり裸になってしまう展開が、何とも言えずおもしろい。このニセ温泉旅館がどこにあるかは、本書では明かされていない。近くに北上川が流れているということは、ひょっとしてあのあたりか、などと想像をめぐらしながら読むのも一興ではなかろうか。

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